1.資料の概要と背景
この資料は、経済産業省の審議会である「産業構造審議会 資源エネルギー分科会 電力・ガス基本政策小委員会」の下部組織として設置された「電力安全小委員会(保安制度ワーキンググループ)」が、2021年3月25日に開催した第8回会合の主要論点と参考データをまとめたものです。
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会合の目的:
電気保安制度や老朽化設備、災害対応など、電気設備をめぐる安全確保の課題を整理し、今後の施策や法令見直しに関する方向性を議論するため。 -
対象となる主な設備:
電気事業用の発電設備・送配電設備・変電所・需要家設備(工場・商業施設・オフィスビル等)。もちろん、電気工事士が日常的に携わる低圧・高圧設備や再エネ設備も対象に含まれます。
資料中では、年間の電気事故件数や高経年化設備の割合といった具体的な数字が提示され、さらにICT・IoTを活用した保安業務の効率化や災害時の復旧支援体制強化などが重点検討されています。
2.電気保安をめぐる主な課題と数値データ
2-1.老朽化設備が急増:平均稼働年数の長期化
老朽化率と事故発生件数の関係
- 送配電設備の約4割が設置後30年以上経過している、という試算が示されています(電力会社などの大規模設備を含む)。
- 需要家側の設備(自家用電気工作物)のうち、使用開始から25年超の変圧器が全体の3分の1以上とのデータも紹介されました。
これに伴い、老朽化した変圧器や配電盤を原因とするトラッキング事故・地絡事故が発生しやすくなっていると報告されています。資料内の統計によると、2019年度には全国で約200件の重大・軽微な事故が報告され、その一定割合が老朽化絡みだったとのことです。
電気工事士向けポイント
老朽化した受変電設備の更新・改修ニーズがさらに高まる見通しです。特に、交流遮断器やコンデンサなどの内部絶縁劣化を見落とさないよう、定期点検や交換提案が重要となります。
2-2.災害リスク:近年の自然災害増加と復旧状況
台風・豪雨災害時の停電被害
- 2019年の台風15号・19号では、関東・東北を中心に最大延べ90万戸以上が停電、復旧完了までに数週間を要しました。
- 同資料では、地震や豪雨による被害拡大が想定される地域が多数存在し、送電線断線や配電柱倒壊などの事例が列挙されています。
復旧支援と課題
- 復旧に際し、電力会社だけでは対応しきれない場合、他地域の電力会社や関連協力企業が約数千人規模で応援に駆け付けたケースもあったと報告。
- しかし、被災地での作業員受け入れ体制や物資不足などの課題が依然として大きく、作業の安全確保と効率化が急務とされています。
電気工事士向けポイント
被災後の配線復旧や仮設電源工事など、災害対応の実務が求められるケースが増加しています。各地域の行政・業界団体が策定する災害時BCP(事業継続計画)を把握し、自社での対応手順や連絡網を整備しておきましょう。
2-3.再生可能エネルギー導入の拡大
逆潮流やパワコン系統連系への対応
- 太陽光発電の導入量が右肩上がりで増え、**全国累計で約60GW(2020年度時点)**に達すると試算。
- 小規模事業者や一般家庭にも広がり、系統側に逆潮流(需要家側から配電線へ送り返す電力)が発生する事例が増加。
- パワコンや蓄電池に起因する事故・トラブルも散見されるようになり、正しい施工・メンテナンスが必要。
電気工事士向けポイント
再エネ普及に伴い、電力会社との連系申請の手続きや系統保護装置に関する知識が欠かせません。また、パワコンや接続箱の不具合を早期発見するために、絶縁抵抗測定やアーク検出機能など専門的な計測技術を身につけておくと業務範囲が広がります。
3.保安制度ワーキンググループでの主な論点(詳細)
3-1.電気保安規制の見直し:新技術導入を後押し
資料では、遠隔監視システムの活用やドローンによる空撮点検の事例が紹介されています。しかし、現行の電気事業法や電気工事士法には想定外の技術が登場しているため、法令解釈やガイドライン整備が必要とされている状況です。
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・ドローン点検を行う際の安全確保・電磁波影響・飛行制限など、航空法との整合性も含めたルール検討
・ITツールを活用し、現場でQRコード読み取り→点検結果をクラウドにアップロード→自動で報告書を作成する仕組み
3-2.自主保安と保安統括者の責任範囲
- 年間電気事故報告のうち約3割が、自主保安体制を敷く事業者(大型工場やプラントなど)でのトラブル。原因調査によれば、設備の老朽化だけでなく担当者の見落としや点検周期の延長が影響しているケースが多数。
- 保安統括者として選任される電気主任技術者の役割を明確化するため、業務手順書や緊急時フローを標準化する動きが紹介されました。
3-3.人材不足と技能継承対策
- 電気事業関連の技術職の平均年齢は約48歳とも言われ、今後10年程度で大量の退職が見込まれる。
- 見習いや若手を指導する仕組みが不十分だという指摘もあり、「OJTガイドライン」の作成や専門教育機関との連携などが議題に上がっています。
4.今後の方向性:提案・施策(数値入り)
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ICT・IoT活用の促進
- 遠隔監視システム導入件数を、現行の約1万事業所から2025年度までに2倍へ増やす目標案が提示。
- 点検記録や報告書の電子化比率を、現状の推定20~30%から50%超に引き上げる方針。
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保安高度化の支援事業
- 老朽設備更新や故障予測システム導入に対して、補助金や税制優遇を用意する案が検討されている。
- 国や地方自治体が協調して、災害復旧の応援体制を強化。大規模停電時に数百~数千人規模の応援要員を迅速派遣できる仕組みを検討。
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人材育成プログラム
- 電気主任技術者や電気工事士の試験合格者に対する研修を義務づけ、保安実務の“即戦力化”を促進する構想。
- 2030年までに、電気保安人材2万人増(新規就業者と人材再配置を含む)を目指す数値目標が示唆。
5.電気工事士が知っておきたい具体的アクション
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法令改正の動向ウォッチ
- 電気工事士法や電気事業法の施行規則改正が検討されているため、定期的に経産省や業界団体のサイトを確認しましょう。新たな報告手続きや点検方法に関わる情報がアップデートされる可能性があります。
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ICTスキル・新技術への対応
- ドローンやスマートグラス、タブレット端末を使った点検実務へのシフトが進んでいます。こうした機器の操作に慣れておくと、業務効率化や提案力アップに直結します。
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保安管理業務へのキャリアアップ
- 老朽設備更新や災害時復旧支援などの保安業務は拡大傾向。電験(電気主任技術者試験)の取得を視野に入れれば、工事だけでなく保安監督や管理職としても活躍できる機会が増えるでしょう。
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災害対応訓練・BCPの理解
- 自社や所属組織が策定しているBCP(事業継続計画)や災害時マニュアルを熟知し、いざという時に適切に動ける体制を整備しましょう。
まとめ:電気工事士の活躍の場はますます拡大
2021年3月の電力安全小委員会(保安制度ワーキンググループ)第8回会合資料では、電気保安の現状や課題が具体的な数字とともに示されています。特に、
- 老朽化設備(30年以上経過が4割超)への更新需要
- 大規模自然災害による停電リスクの拡大
- 再生可能エネルギー導入に伴う系統連系問題
- ICT・IoT活用による点検・監視のデジタル化
- 人材不足(平均年齢約48歳)と技能継承
といった課題が浮き彫りになり、これらへの対応として規制・法令の見直しや保安管理の高度化、人材育成策が検討されています。電気工事士としては、こうした制度改革の動きをキャッチアップしながら、新技術や保安知識を積極的に身に付けることで、老朽設備更新・災害対応・再エネ施工など幅広い分野で活躍が可能です。
現時点でも、災害復旧や設備更新の現場では、電気工事士の需要が非常に高まっています。点検・施工・メンテナンスのスキルだけでなく、ICT対応や資格の上位取得を含めたキャリアアップが業界から強く求められる時代になってきました。ぜひ今回の情報を参考に、自身のスキルプランや学習計画を再考してみてください。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/008_02_00.pdf
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