建設業界で働く上でメジャーな資格として、「建築施工管理技士」と「建築士」が挙げられます。どちらも「国家資格」であり、建設業界においてはどちらも重宝される資格となっています。
有資格者は出世や昇給だけでなく、転職の際にも有利になります。実際、これから建設業界でキャリアアップを図っていく上で、「建築施工管理技士と建築士、どちらの資格をとった方がよいの?」と迷われている方も多いと思います。
今回は、混同されがちな「建築施工管理技士」と「建築士」の違いについて解説していきます。自分は将来どんな仕事をしたいのか、どの分野で活躍していきたいかなどをイメージしながら読んでいただければと思います。
建築施工管理技士と建築士の違いとは
建築施工管理技士と建築士はどちらも国家資格であり、建設業界においては欠かせない重要な職業といえます。業務内容や試験範囲が一部同じところがある為、混同されがちですが、それぞれの資格によって、業務の目的と役割が異なってきます。
一般的に、建築施工管理技士は建設工事に特化した仕事、建築士は設計・監理に特化した仕事と大別、イメージしてただけるとわかりやすいでしょう。またそれぞれの資格には「1級」と「2級」があります。これらの違いについても簡単に説明していきます。
建築施工管理技士:現場管理のスペシャリスト
建築施工管理技士の仕事は、建設現場での工事の指揮・監督、計画通りに工事が工事が行われているか等、施工管理することが主となります。施工計画、工程管理、品質管理、安全管理を行うスペシャリストです。
<建設工事 16種>
「1級」建築施工管理技士は以下16種において監理技術者として業務を行えます。
・建築
・大工
・左官
・とび大工
・石工事
・屋根工事
・タイルレンガブロック工事
・鋼構造物
・鉄筋工事
・板金工事
・ガラス工事
・塗装工事
・防水工事
・内装仕上工事
・熱絶縁工事
・建具工事
次に1級と2級の違いについて簡単にみていきます。2級は主任技術者の選任を受けることができますが、監理技術者の選任を受けることができません。
<1級と2級の違い>
◉1級:すべての工事現場(上記16種)で施工管理などが行える。主任技術者、監理技術者の選任を受けることが可能。
◉2級:建築・躯体(くたい)・仕上げの3種類に分かれており、資格を取得した分野で施工管理や安全管理を行うことが可能。主任技術者の選任を受けることができる。
建設業は規模等により、「一般建設業」と「特定建設業※」に大別されます。
※特定建設業:土木一式工事、建築一式工事、舗装工事、電気工事、管工事、鋼構造物工事、造園工事の7種。特定建設業は「専任技術者」、現場に置く「監理技術者」には「1級」施工管理技士等の国家資格者を置くことを義務付けられています。(ここでは特定建設業は大規模な建設工事とイメージしていただければと思います。)
1級でも2級でも行う仕事内容は大きく変わりません。ただし、2級は担当できる工事規模に制限があり、1級保有者でなければ大規模工事を担当することができません。
このように「1級」保有者の方が、仕事の幅も広がりますし、現場に有資格者を置くことが義務付けられている為、会社側からも重宝されるポジションになれるといえます。
続いては、建築士についてみていきましょう。
建築士:設計・監理のスペシャリスト
建築士は建築の設計・監理者として必要な資格です。
建築施工管理技士が現場管理のスペシャリストであるのに対し、建築士は設計のスペシャリストといえます。建築士の仕事は、建物や建物設備の設計を行い、工事が設計図通りに実施されているかについて現場の監督を行うことができる仕事です。ただし、建築施工管理技士は建設工事の全工程(前項の全16種)で監督業務が行えるのに対し、建築士として業務が行える範囲は、全16種のうち以下の種類に限定されます。
<建築士が監理技術者として業務を行える範囲>
・建築
・大工
・屋根工事
・タイルレンガブロック工事
・鋼構造物
・内装仕上工事
上記の通り、監督業務を行える範囲は限定的になりますが、その代わり、建築施工管理技士が行うことができない設計や設計管理が可能です。この点が建築施工管理技士と建築士の大きな違いになります。
また建築施工管理技士と同様、建築士にも1級と2級の区分があります。
◉1級:設計する建物の規模に制限がない(一般住宅から大規模な建物まで可能)
◉2級:設計できる建物は、戸建住宅程度の規模までという制限がある
こちらも建築施工管理技士同様、級により設計できる建物の規模が変わります。簡単にいうと、2級は戸建住宅をイメージした資格、1級はその制限がない資格と考えていただけるとわかりやすいと思います。
難易度は?
一般的には建築士の方が、建築施工管理技士よりも、試験範囲が広い、勉強量が多い分、難易度は高いといわれています(※ここでは「1級建築士」と「1級建築施工管理技士」を比較しています)。
どっちが格上?建築施工管理技士<<<建築士?
一般的には、建築施工管理技士より建築士の方が「格上」というようなイメージがありますよね。
「建築施工管理技士は建築士になれない人間の資格」などといわれるケースもあるみたいです。そういった背景には以下のような理由が考えられます。
建築士の方が試験内容が広範囲
施工管理士の資格試験は、施工分野に限定されていますが、建築士の試験範囲は施工だけでなく、計画・法規・構造・設備と多岐に渡っています。試験内容が広範囲だったり、勉強量が多い分、建築士の資格取得の方が、難易度は高いとされています。
建築施工管理技士の「学科試験」が免除される?
一級建築施工管理士の試験は、「学科試験」と「実地試験」に分けて行われます。「学科試験」に合格し「実地試験」に不合格であった人(または受験しなかった人)は、本人の申請により、翌年の試験における「学科試験」は免除されます。
なお、1級建築士合格者については以下の措置があります。
◉「1級建築士」合格者:1級建築施工管理技士の「学科試験」免除できる
一級建築士試験に合格されている方であれば、一級建築施工管理技術検定学科試験の受験資格があれば、学科試験は免除され実地試験から受験することができます。建築士の試験の方が、広範囲で難易度が高いため、このような措置があるみたいですね。
やっぱり建築士の方が格上なの?
先述した通り、建築士試験の方が難易度が高いため、資格取得の観点からだけでみれば、建築士の方が、格上にあるといえます。
ただし、これまでみてきたように、建築施工管理技士と建築士の仕事は専門分野が異なります。実際に両資格を取得している方もいらっしゃいますが、実際に両業務をひとりで行なっている方は、ごくわずかといえます(両資格を取得すれば、理論上は設計から施工管理までひとりで行うことが可能ですが、それぞれの業務量を考えたらなかなか難しいのが現実)。
どちらの資格、職種についても建設業界にとっては必要不可欠な仕事であり、両者ともに非常に重宝される職種です。それぞれの分野のスペシャリストですので、どちらが格上も格下もないのです。
いま、どちらの資格を取得しようかと悩まれている方は、最終的に自分がどちらの分野で専門性を発揮し、活躍していきたいかをベースに考えてみるといいでしょう。
まとめ:建築施工管理技士と建築士の違い
それぞれ専門分野がちがう
建築施工管理技士=現場管理のスペシャリスト
建築士=設計のスペシャリスト
一級建築施工管理技士は全現場、工程にて施工管理が行える
建築士が監督業務を行える範囲は、建築施工管理技士に比べ限定的
『みんなちがって、みんないい。』(金子 みすゞ)
建築施工管理技士と建築士に優劣はありません。それぞれの分野のプロフェッショナルとして、自分が活躍できる場所をみつけていきましょう。
おまけ:本当に資格なんて意味あるの?「1級」を目指そう!
前述していきましたが、建築施工管理技士、建築士ともに「1級」と「2級」によって担当できる、現場や建物の規模が変わってきます。建設業界でより大きな仕事をしたい、キャリアアップを図りたいという方にとっては、「1級」の資格取得を目指すことをオススメします。
さいごに、資格取得は本当に意味があるのか、取得することによってどんなメリットがあるかに触れておわりたいと思います。
「たかが資格でしょ」「お勉強より現場は経験値だよ」と思ってる方も多いと思います。いうまでもなく、建設業界は経験がものをいう業界ですので、私も経験値に勝ることはないと思っております。ただ、取得するメリット等も当然ありますので、「資格は必要ないよ」と決めつける前に、自分のキャリアアップをイメージしながら読んでみてください。
周りの目が変わる?
実際に有資格者のお話を聞くと、資格取得前と後では周囲の見る目が一気に変わったと感じる方が多いようです。資格取得をしたことで、現場の職人さんや社内の人たちからの自分に対する対応が変わったという声が多くありました。実際の業務においても、以前より任される仕事の規模や幅が広がっていくケースが多いので、これまで以上に現場での経験値を貯めれたり、自然と社内での昇進や昇給につながる等のメリットもあります。仕事の幅が広がることで、自身のスキルアップもより実感できるようです。
転職にも有利?
資格は、転職や、いまの職場での待遇交渉(年収、職位等)の際にも大きな武器となりえます。
「建築施工管理技士」等の資格は、建築施工における専門分野での深い知識を習得していることだけでなく、実務経験があることを証明する国家資格です。豊富な実務経験がものをいう業界であり、「即戦力」を欲している企業の方が多いため、豊富な実務経験を証明できる有資格者は採用担当者の目にとまりやすいといえます。
とくに「1級建築施工管理技士」に関しては、工事の規模に関する制限が無いため非常に重宝される人材です。大規模工事を扱える「1級」の資格を持っている人は、優先的に採用されているのが現実です。
試験内容と実際の現場での仕事内容が必ずしもすべて同じということはありませんが、資格取得によって、自分の実務経験値を証明しやすくなる、任される仕事の幅が広がる等々、キャリアアップのチャンスを得られる確率が格段に高まっていきます。「資格」は、年収などの待遇交渉や、転職の際の交渉材料にすることができます。ハードワークの中、仕事と資格勉強の両立は決して簡単ではありませんが、将来的な給料やポジションを高める意味では、是非「上級」の資格取得を目指していただきたいと思います。
コメント
コメント一覧 (1件)
一級建築士は試験が広範囲に渡り難しいので、合格率も低くなかなか合格しません。バブル期の建築ラッシュで現場監理者が足りなくて建設業界からの要望で急遽創られた資格です。
実際多くの人が活躍しているため、資格として持っておくにはよいものだと思われます。