工程表を開くたびに、どこに手を打てば工期が守れるのか頭がモヤモヤする。建築現場では、躯体・電気・設備・仕上と職種が絡み合い、一本のバーチャートだけでは「本当に効く手」が見えにくい。
結論から言う。全体の流れと「遅れたら終わり」の経路を一覧にするなら、アロー型ネットワーク工程表が最も適している。矢線(アロー)で作業の前後関係を結び、最長経路=クリティカルパスを浮かび上がらせる。ここを外さなければ、工程遅延のリスクをぐっと抑えられる。
この記事のポイント
- アロー型ネットワーク工程表の定義と、クリティカルパスが「工期のボトルネック」になる理由
- アクティビティ・イベント・ダミーのルールと、現場で使える作り方(前後関連づけ→所要日数→最長経路の抽出)
- 建築工事での使う場面(ゼネコン・ハウスメーカー・複数業者絡む現場)
- 工期短縮はクリティカルパス上の工程に手を打つと効果が高い理由
監修者の林は、プラント系の現場で工程表と向き合う日々を送ってきた。「クリティカルパス上の作業が一日ずれただけで、関係者全員の顔色が変わった」という経験がある。建築でも考え方は同じだ。この記事では、アロー型の基本から作り方・読み方まで、現場で使える形に絞って解説する。
アロー型ネットワーク工程表とは?
アロー型ネットワーク工程表は、作業を矢線(アロー)で表し、作業と作業のつながりを丸印(イベント)で結んだ図のことだ。各作業に所要日数を書き込み、開始から完了まで「どの経路が一番長いか」を足し上げていくと、工期を決める最長経路=クリティカルパスが一本線で見える。
バーチャートは「いつ・何が」は分かるが、「この作業が遅れたら次は全部ずれる」という依存関係が直感的に伝わりにくい。ネットワーク工程表なら、前後関係が矢と丸で可視化される。だから、複数業者が絡む建築工事で全体像を共有するのに向いている。
クリティカルパスを押さえると何が変わるか
クリティカルパスは、工事開始から完了まで、つなげたときの合計日数が最も長くなる経路だ。この経路上の作業が一日でも遅れると、全体の竣工が一日伸びる。逆に、工期を短縮したいなら、まずこの経路上の作業に手を打つと効果が大きい。
現場では、関係者が「どこを守ればいいか」を共通認識できると、打ち合わせがスッキリする。クリティカルパス以外の作業には多少の余裕(フロート)があるので、人員や資材の融通も考えやすくなる。どこに手を打てばいいか分かると、胸のざわつきが少し落ち着く。
アロー型の考え方:矢線とイベントと前後関係
建築工事では、躯体・型枠・配筋・設備・仕上など、多くの専門業者が同じ現場で動く。それぞれの「いつから着手できるか」は、前の作業がどこまで終わっているかに依存する。この前後関係を矢線で結び、交わる点を丸(イベント)で表すのがアロー型の考え方だ。
ある作業に取りかかるには、そのイベントに集まる矢線(=前の作業)がすべて完了していないといけない。複数の経路が合流するイベントでは、「一番到着が遅い経路」が次の作業の開始を決める。だから、経路ごとに日数を足し上げ、最長のものをたどっていけばクリティカルパスになる。
建築工事でネットワーク工程表が効く場面
アロー型が特に役立つのは、ゼネコンが施工するビル・マンション・施設の新築や、ハウスメーカーの戸建て新築のように、多くの業者が絡み、工程のつながりが複雑になる現場だ。
単純な小規模リフォームでは、バーチャートだけでも回る。だが、躯体→設備→仕上と段階がはっきりしていて、かつ各段階のなかでも並行作業が多い工事では、ネットワークで全体像を描いたほうが、遅延の原因を特定しやすい。
▶ 工程管理の重要性は建築施工管理の工程管理の記事でも解説している
アロー型ネットワーク工程表の作り方
作り方の流れは、(1)作業の前後を関連づける、(2)各作業に所要日数を書く、(3)経路ごとに日数を合計してクリティカルパスを出す、の3段階でよい。
ルールの整理:アクティビティ・イベント・ダミー
まず用語を押さえる。
- アクティビティ(矢線):一つ一つの作業。矢の上に作業名(例:A工事)、矢の下に所要日数を書く。
- イベント(丸印):作業がつながる点。中に重複しない番号を入れる(イベント番号)。
- ダミー(点線の矢):日数はゼロ。前後関係だけを示したいときに使う。「Aが終わらないとCに着手できない」といった制約を表す。
矢は左から右へ、工事の進行方向に書く。一つのイベントに入る矢(作業)がすべて完了してから、そのイベントから出る次の作業を開始する、というルールを守る。
ステップ1:作業の前後を関連づける
専門工事ごとに、「Aが終わったらB」「Bが終わったらCとD」のように、流れを矢線でつなぐ。並行する作業が出てきたら矢線を分岐させ、別ルートで描く。別ルート同士の間で「前後だけ」の関係があるときは、点線の矢(ダミー)で結ぶ。
すべての作業を関連づけ終えると、分岐と合流が一目で分かる図になる。ここまでできれば、次は各矢線に日数を書き込むだけだ。
ステップ2:所要日数を記入し、クリティカルパスを導く
各作業の所要日数を矢線の下に記入する。始点から順に、経路をたどりながら日数を足していく。複数の経路が一つのイベントに合流するときは、到着日数が一番大きい経路を採用する。なぜなら、そのイベントから先の作業は、一番遅く着いた経路が終わるまで開始できないからだ。
例を挙げる。A完了後にBとCに分岐し、B完了でD、C完了でE、DとEが両方終わってからFに着手できるとする。A=3日、B=2日、C=3日、D=2日、E=2日なら、ルート①はA→B→Dで7日、ルート②はA→C→Eで8日。Fは8日後にしか開始できないので、ここではルート②がクリティカルパスを構成する。このように、全経路をたどって最長の経路を結べば、クリティカルパスが求まる。
現場で初めて描くときは、まず小さなブロック(例:躯体だけ)で試して、矢と丸の感覚に慣れるとよい。慣れてくると、打ち合わせで「この枝がクリティカルだから、ここを崩さない」と説明しやすくなる。
監修者の林は、プラント工事でクリティカルパス上の作業が天候で一日ずれた際、関係者全員の顔色が一気に変わったのを覚えている。その日は海象判断で作業を見送り、翌日に振り替えた。工程表で「どこが命綱か」を共有していたからこそ、判断の重さが現場に伝わった。建築でも、クリティカルパスを共有しておくだけで、打ち合わせの焦点がはっきりする。
工期を短縮したいときはクリティカルパスに手を打つ
工期短縮の方法は、プレカットや物流の効率化、人員増、並行作業の拡大などいろいろある。ただし、効果が大きいのは、クリティカルパス上の作業に集中して手を打つことだ。
クリティカルパス外の作業を短縮しても、全体の竣工日は変わらない。余裕日数(フロート)を食うだけになる。一方、最長経路上の作業を1日短くすれば、理論上は竣工が1日前倒しできる。だから、どこにリソースを振るか迷ったら、まずネットワーク図でクリティカルパスを確認し、その上の作業から対策を検討するのが筋だ。
注意点として、短縮のしすぎで無理な工程にすると、安全や品質を損なう。工期に追われて背中がピリピリした経験があるなら、その感覚を忘れずに、現場の実態と相談しながら現実的な短縮案を選びたい。
▶ 施工管理の現場の負荷については施工管理の残業実態でも触れている
▶ 建築現場の工程の全体像は設備管理とは?の記事もあわせて参照したい
まとめ
アロー型ネットワーク工程表は、作業の前後関係を矢線とイベントで表し、最長経路=クリティカルパスを見える化する手法だ。建築のように多くの業者が絡む現場では、全体像の共有と「どこを守るか」の意思統一に役立つ。作り方のコツは、前後を関連づける→所要日数を書く→経路ごとに足して最長経路を結ぶ、の3段階。工期短縮を考えるときは、まずクリティカルパス上の作業に手を打つと効果が出やすい。
よくある質問
アロー型とバーチャートの違いは?
バーチャートは横軸を時間にした棒グラフで、「いつ・何が」が分かる。アロー型は作業の「前後関係」と「どの経路が一番長いか」が分かる。複数業者が絡み、遅延の連鎖を防ぎたいときはアロー型の方が向いている。
クリティカルパスは途中で変わる?
変わる。進捗によって、別の経路の方が遅くなることがある。大きな遅延や設計変更があったら、ネットワークを更新し、クリティカルパスを引き直すとよい。
小規模な現場でもネットワーク工程表は必要?
作業が少なく、前後関係が単純ならバーチャートで十分なことが多い。ゼネコンやハウスメーカーの新築のように、業者数が多く経路が複雑な現場で特に有効だ。

