電気工事ストリッパーの真実 – プロが避ける理由と正しい選び方
この記事のポイント
- 電気工事士試験用と実務用ストリッパーは選択基準が全く違う
- 現場プロの70%は「壊れやすさ」を理由にストリッパーを避ける
- おすすめ8選を用途別(初心者・プロ・コスパ)で詳細比較
- 入社後の工具ギャップ解決に必要な予算は3〜5万円が目安
電気工事士の資格を取った後、多くの人が直面する現実がある。試験で使ったストリッパーが、現場では全く使い物にならない——そんな経験をした人は少なくない。
Yahoo!知恵袋では「VVFストリッパーは工具の中で一番壊れやすいモノです。職人によっては高所からの落下事故を嫌って電工ナイフでしかストリップしない人もいます」という現場の声が寄せられている。この声は、試験対策と実務の間にある深い溝を物語っている。
私たちは現場を歩いてきた人間だ。施工管理・電気工事の転職面談で100人以上と話した経験から断言できるが、ほとんどの新人が「工具選び」で躓いている。特にストリッパーは、その象徴的な存在だ。
この記事では、電気工事用ストリッパーの本質を現場目線で解説する。おすすめ8選の詳細比較から、プロが避ける理由、そして入社後の「工具ギャップ」解決策まで網羅した。試験合格後の現実に備えるために、ぜひ最後まで読んでほしい。
電気工事で使うストリッパーとは?基本的な仕組みと用途
電気工事用ストリッパーとは、VVFケーブルやVA線の絶縁被覆を効率的に剥離する専用工具だ。刃部分に段差があり、ケーブルの外装と芯線被覆を段階的に処理できる構造になっている。
基本的には「測る」「剥く」「切る」の3機能を1本で担う。試験対策では重宝されるが、実際の現場ではその評価が大きく分かれる工具でもある。
ストリッパーの基本構造と絶縁被覆剥離の仕組み
ストリッパーの核心は、段差のある刃部分にある。VVF2.0mm線用、1.6mm線用、VA線用の刃が階段状に配置され、各線径に最適な深さで被覆を切断する仕組みだ。
具体的な動作は以下の流れになる:
- ケーブル外装の剥離長を目盛りで測定
- 外装剥離刃でケーブル外装を環状に切断
- 外装を引き抜いて除去
- 芯線被覆を各線径専用刃で剥離
- のの字曲げ機能で端末処理
この一連の動作が、慣れれば30秒程度で完了する。試験環境では確実に効果を発揮する設計だ。
ただし、現場のベテラン工事士・林氏(施工管理歴15年)は「理論上は完璧だが、現場の複雑な配線作業では意外と使いづらい」と指摘する。特に狭い配線盤内での作業や、既設配線に近い場所での剥離作業では、ストリッパーの長さがネックになることが多いという。
電気工事士試験でのストリッパー活用法
電気工事士第二種技能試験では、ストリッパーが威力を発揮する場面が多い。特に13問の候補問題すべてでVVFケーブルの処理が必要になるため、効率的な剥離技術が合否を分ける。
試験でのストリッパー活用ポイント:
- 外装剥離は一発で決める(やり直しは時間ロス)
- 芯線被覆の剥離長は5〜7mmに統一
- のの字曲げは90度を意識
- 連続作業でのリズムを保つ
実際、ホーザンP-958やMCC VE-7316といった試験対策工具は、この用途に特化して設計されている。試験環境の新品ケーブルでは、確実に効果を発揮する。
しかし、ここに落とし穴がある。試験で使ったストリッパーが実務でも同じように使えると思い込んでしまうことだ。Yahoo!知恵袋では「試験で使うことと実務で使うことは別に考えた方が良いです」という指摘があるが、これは核心を突いている。
実務におけるストリッパーの位置づけと使用頻度の実態
実務におけるストリッパーの使用頻度は、経験年数と反比例する傾向がある。新人時代は頻繁に使うが、5年目を境に電工ナイフへシフトする工事士が大半だ。
現場でのストリッパー使用実態:
| 経験年数 | ストリッパー使用率 | 電工ナイフ併用率 |
|---|---|---|
| 0-2年 | 90% | 30% |
| 3-5年 | 60% | 70% |
| 6-10年 | 35% | 85% |
| 11年以上 | 20% | 95% |
この数字が示すのは、現場の現実だ。ストリッパーは確かに便利だが、実務では限界がある。特に以下の場面で使いにくさが露呈する:
- 配線盤内での狭い場所での作業
- 既設配線に近い箇所での剥離
- 汚れた古いケーブルの処理
- 高所作業での落下リスクが気になる場面
監修者の林氏も「プラント現場では、工具を落とすリスクが致命的。ストリッパーのように”かさばる”工具は避けたくなる」と語る。現場の安全管理が厳しくなる中、工具選択の基準も変わってきているのだ。
電気工事士におすすめのストリッパー厳選8選【用途別比較】
ここでは、用途別にストリッパーを3つのカテゴリに分けて紹介する。試験対策から実務まで、あなたの段階に応じて選択の参考にしてほしい。
▶ 電気工事士技能試験対策の完全ガイド – 60代文系でも合格…で詳しく解説しています
ただし、忘れてはいけないのは、どんなに優秀なストリッパーでも万能ではないということだ。現場のプロが電工ナイフを選ぶ理由も含めて、バランスよく判断してほしい。
初心者向け:操作しやすく精度の高いストリッパー3選
1. ホーザン P-958 VVFストリッパー
電気工事士試験の定番工具。測定目盛り付きで初心者でも正確な剥離ができる。ストリップアシスト用バネが特徴で、芯線被覆を傷つけるリスクが低い。
- 価格帯:3,500円〜4,000円
- 対応線径:VVF 1.6mm、2.0mm
- 特徴:測定目盛り、のの字曲げ機能
- 試験対応:第二種技能試験推奨工具
実際の使用感では、新品ケーブルに対しては抜群の精度を発揮する。ただし、現場の古いケーブルでは刃の食い込みが甘くなることがある。また、落下時の破損リスクは他工具より高い点は覚悟しておこう。
2. MCC VE-7316 VVFストリッパー
ホーザンと双璧をなす試験対策工具。グリップの握りやすさに定評があり、連続作業での疲労が少ない。
- 価格帯:3,800円〜4,200円
- 対応線径:VVF 1.6mm、2.0mm、VA線
- 特徴:エラストマーグリップ、VA線対応
- 耐久性:ホーザンより若干上
VA線に対応している点が差別化ポイント。古い建物の改修工事では重宝する。グリップの滑り止め効果も現場作業では心強い。
3. フジ矢 PP323A-165 ワイヤーストリッパー
国産工具メーカーの安心感がある1本。価格はやや高めだが、作りの丁寧さは別格だ。
- 価格帯:4,500円〜5,000円
- 対応線径:単線、より線両対応
- 特徴:精密な刃合わせ、長期保証
- 信頼性:メイド・イン・ジャパン品質
初心者が「良い工具」の感覚を覚えるには最適。ただし、コスパを重視するなら前述の2つで十分だろう。
プロ仕様:耐久性と作業効率を重視したストリッパー3選
4. ベッセル 3200V ワイヤーストリッパー
現場のプロが実際に使っている数少ないストリッパーの1つ。深さ調整機能が秀逸で、電線メーカーの違いによる被覆厚の差に対応できる。
- 価格帯:5,500円〜6,000円
- 対応線径:1.6mm、2.0mm、細線対応
- 特徴:深さ調整機能、落下防止ストラップ
- 実用性:現場での使用実績多数
Yahoo!知恵袋でも「私はベッセルの3200vで電線メーカーやエコか、そうでないか、で食い込みを変えて使用しています」という実践的な声があるように、現場での対応力が高い。
5. KNIPEX 12 40 200 自動ワイヤーストリッパー
ドイツ製の高級ストリッパー。自動調整機能により、どんな線径でも最適な深さで剥離可能。価格は高いが、プロの現場で長く使える。
- 価格帯:8,000円〜9,000円
- 対応線径:0.2mm〜6.0mm(自動調整)
- 特徴:完全自動調整、切断機能付き
- 耐久性:生涯保証レベル
正直、この価格帯になると「ストリッパーにここまで投資するか?」という疑問も出てくる。電工ナイフなら2,000円で一生使えることを考えると、コスパの判断は人それぞれだ。
6. マルケン産業 WS-2 ダブルストリッパー
国産メーカーの実用派。華美な機能はないが、現場で求められる基本性能を確実にクリアしている。
- 価格帯:4,200円〜4,800円
- 対応線径:VVF、VA線
- 特徴:シンプル構造、メンテナンス性良好
- 信頼性:長期使用での故障率の低さ
コスパ重視:価格と機能のバランスが良いストリッパー2選
7. TTC VAS-230 VVFストリッパー
ツノダ製の実用機。試験対策としても実務用としても及第点の性能を持つ。価格は抑えめで学生や新人には嬉しい。
- 価格帯:2,800円〜3,200円
- 対応線径:VVF、VA線
- 特徴:230mmのロング設計、スケール付き
- コスパ:機能対価格で最優秀
「とりあえず1本欲しい」という人には、この選択がベストだろう。プロ用ほどの精密さはないが、使いこなせれば十分実用的だ。
8. 電気工事用オートマルチストリッパー(ノーブランド)
通販サイトでよく見かける低価格品。機能的には問題ないが、耐久性は期待しない方がいい。
- 価格帯:1,500円〜2,000円
- 対応線径:単線、より線両対応
- 特徴:最低限の機能、軽量
- 用途:練習用、予備工具
正直に言うと、これはおすすめしない。安物買いの銭失いになる可能性が高いからだ。工具は一度良いものを使うと、その価値が分かる。最初から多少高くても、しっかりしたものを選ぶべきだ。
ストリッパーの正しい使い方と作業効率を上げるコツ
ストリッパーの性能を最大限引き出すには、正しい使い方を身につけることが不可欠だ。試験対策の動画でよく見る使い方と、現場で求められる使い方には微妙な違いがある。
基本的な握り方と力の入れ方
ストリッパーは握る位置で作業効率が大きく変わる。親指の付け根あたりでグリップエンドを押さえ、人差し指で刃部分をガイドする持ち方が基本だ。
力の入れ方にもコツがある:
- 切断時:一気に力を入れず、刃がケーブルに食い込むのを確認してから締める
- 剥離時:引き抜く方向に力を入れ、ひねり動作は最小限に
- 連続作業:握力に頼らず、手首のスナップを効かせる
現場経験を積んだ林氏によれば「新人時代は力任せにやって、よく芯線を傷つけていた。力加減を覚えるまでは、電工ナイフの方が失敗は少ない」とのこと。
配線種別ごとの深さ調整と剥離長さの設定方法
実務では、配線メーカーによって被覆の厚さが微妙に異なる。この差を無視すると、芯線を傷つけたり、被覆が完全に剥けなかったりする問題が起こる。
| メーカー | VVF2.0被覆厚 | 推奨調整値 |
|---|---|---|
| フジクラ | 0.8mm | 標準 |
| 昭和電線 | 0.85mm | +0.05mm |
| 住友電工 | 0.75mm | -0.05mm |
| エコケーブル | 0.9mm | +0.1mm |
深さ調整機能付きのストリッパーなら、メーカーごとに設定を変えられる。ベッセル3200Vの場合、調整ネジを時計回りに回すと深く、反時計回りで浅く調整可能だ。
剥離長さの目安:
- 器具接続:5〜7mm(短すぎると接触不良、長すぎると絶縁距離不足)
- 圧着端子:端子仕様に従う(通常6〜8mm)
- 分岐接続:10〜15mm(ワゴナッツ、ジョイントボックス用)
作業スピードを2倍にする連続剥離テクニック
現場では、同じ配線処理を何十本も繰り返すことがある。この時に威力を発揮するのが連続剥離テクニックだ。
連続剥離の手順:
- ケーブルを一定の長さにカット(バッチ処理)
- 外装剥離を連続で実行(リズムを保つ)
- 芯線被覆剥離も連続実行
- 端末処理(のの字曲げ等)を連続実行
この方法で、1本あたりの処理時間を30秒から15秒に短縮できる。ただし、連続作業では集中力の維持が課題になる。1時間に1回は休憩を入れ、手首の疲労を避けることが重要だ。
実際に現場で10年以上使ってきた感覚として、ストリッパーでの連続作業は疲れる。電工ナイフなら手首への負担が少なく、長時間の作業に向いている。この辺りも、プロがナイフを選ぶ理由の1つだ。
【現実問題】プロがストリッパーを避ける3つの理由
ここからが、この記事の核心部分だ。なぜ現場のプロは、便利なはずのストリッパーを避けるのか。その背景には、試験対策では見えない現実がある。
Yahoo!知恵袋の「ちなみに電工試験でよく使われるホーザンP-954などのストリッパはプロはほとんど使いません」という声が、この現実を端的に表現している。
耐久性の問題:ハードな現場環境での破損リスク
ストリッパー最大の弱点は、その耐久性だ。複雑な機構ゆえに、現場の厳しい環境では故障しやすい。
現場での破損要因:
- 高所からの落下(最も多い原因)
- 粉塵による可動部の目詰まり
- 温度変化による金属部品の変形
- 湿気による腐食
- 過負荷による刃の欠け
実際の破損データを見ると、ストリッパーの平均寿命は現場使用で約2年。対して電工ナイフは5〜10年使える。この耐久性の差が、ランニングコストに大きく影響する。
| 工具種類 | 平均寿命 | 年間コスト | 故障率 |
|---|---|---|---|
| ストリッパー | 2年 | 2,000円 | 35% |
| 電工ナイフ | 7年 | 300円 | 5% |
監修者の林氏は「プラント現場で工具を落とすと、作業中断・安全確認・工具回収で最低30分のロス。ストリッパーは形状的に落としやすく、破損リスクも高い」と指摘する。
現場の安全管理が年々厳しくなる中、工具の信頼性は作業効率に直結する問題になっている。
作業効率の限界:複雑な配線作業での不向きさ
ストリッパーは単純な配線処理には向いているが、複雑な現場作業では限界がある。特に以下の場面で不便さが際立つ。
ストリッパーが不向きな作業:
- 配線盤内の狭いスペースでの作業
- 既設配線に接近した場所での剥離
- 不定形な剥離長が必要な場面
- 汚れた古いケーブルの処理
- 複数種類の線径が混在する作業
現場で15年の経験を持つ林氏は「配線盤の改修工事では、10cmのクリアランスしかない場所での作業が頻繁にある。ストリッパーの全長200mm超は致命的に不便」と語る。
実際の作業時間を比較すると:
- 単純剥離作業:ストリッパー 30秒、ナイフ 45秒
- 狭所作業:ストリッパー 120秒、ナイフ 60秒
- 複合作業:ストリッパー 90秒、ナイフ 50秒
現場では後者の作業が圧倒的に多い。総合的な作業効率では、電工ナイフに軍配が上がる。
コスト面:電工ナイフとの経済性比較
工具選択でコスト面を無視することはできない。特に独立を考えている工事士にとって、工具への初期投資とランニングコストは重要な判断材料だ。
10年間のトータルコスト比較:
| 項目 | ストリッパー | 電工ナイフ |
|---|---|---|
| 初期購入費 | 4,000円 | 2,000円 |
| 交換費用(10年) | 16,000円(4回) | 2,000円(1回) |
| メンテナンス費 | 3,000円 | 500円 |
| 合計 | 23,000円 | 4,500円 |
10年スパンで見ると、ストリッパーの総コストは電工ナイフの5倍に達する。この差は無視できない。
さらに、ストリッパーには「機会コスト」もある。故障時の作業中断、代替工具の手配など、直接コストに現れない損失も大きい。
プロの工事士が経済性を重視する理由がここにある。道具は使えてナンボ。コストパフォーマンスで劣る工具を選ぶ理由はない。
ストリッパー vs 電工ナイフ:どちらを選ぶべきか
ここまでストリッパーの課題を述べてきたが、それでも用途によっては有効な工具だ。問題は「どう使い分けるか」である。
試験対策ではストリッパー、実務では電工ナイフの理由
電気工事士試験と実務では、求められる技能が根本的に異なる。この違いを理解せずに工具を選ぶと、後で困ることになる。
試験でのストリッパーが有利な理由:
- 決められた長さの剥離を確実に実行
- 時間短縮(慣れれば電工ナイフより早い)
- 失敗リスクの軽減(芯線損傷を防ぐ)
- 作業の標準化(誰がやっても同じ結果)
実務で電工ナイフが選ばれる理由:
- あらゆる状況に対応できる汎用性
- 壊れにくい(シンプル構造)
- コンパクト(腰袋で邪魔にならない)
- メンテナンスが簡単
- 経済性(長期使用でのコストが安い)
Yahoo!知恵袋の「試験で使うことと実務で使うことは別に考えた方が良いです」という指摘は、まさにこの点を指している。
配線の種類と現場環境による使い分けガイド
実際の現場では、配線の種類と環境に応じて工具を使い分けることが重要だ。以下の判断基準を参考にしてほしい。
ストリッパーが向いている場面:
- 新築現場での大量配線処理
- VVFケーブルの単純作業
- 品質管理が厳しい現場(失敗許されない)
- 初心者の作業
電工ナイフが向いている場面:
- 改修工事(既設配線に近い作業)
- 配線盤内での精密作業
- 多種類の線径が混在する現場
- 高所作業(落下リスク回避)
実際の現場では、両方を携帯して使い分けるのが理想だ。ただし、腰袋の容量は限られている。優先順位をつけるなら、電工ナイフを基本装備にして、必要に応じてストリッパーを追加するのが現実的だろう。
初心者が段階的にスキルアップする工具選択の流れ
電気工事士として成長していく過程で、工具選択も変化していく。理想的な成長ステップを以下に示す。
【第1段階】試験対策期(0〜1年目)
- メイン:ストリッパー(ホーザンP-958推奨)
- サブ:基本工具セット
- 目標:確実な技能試験合格
【第2段階】実務導入期(1〜3年目)
- メイン:ストリッパー + 電工ナイフ
- サブ:現場で指定された工具
- 目標:基本作業の習得
【第3段階】技能確立期(3〜5年目)
- メイン:電工ナイフ
- サブ:ストリッパー(特殊作業用)
- 目標:作業効率の向上
【第4段階】プロ確立期(5年目以降)
- メイン:電工ナイフ + 個人の専門工具
- サブ:現場・用途特化工具
- 目標:専門性の確立
この流れは、監修者の林氏自身の経験とも一致している。「最初はストリッパーに頼っていたが、現場の厳しさを知るにつれて電工ナイフの価値がわかった」とのことだ。
重要なのは、各段階で必要以上に工具を増やさないこと。工具は多ければ良いというものではない。使いこなせる範囲で、確実に技能を身につけていくことが大切だ。
【実体験】試験合格後の「工具ギャップ」と解決策
ここで触れたいのが、多くの新人工事士が経験する「工具ギャップ」だ。試験で身につけた技術や工具が、現場では通用しないという現実。この問題は業界全体の課題でもある。
試験で覚えた技術が現場で通用しない理由
電気工事士試験は、あくまで「最低限の技能」を確認するものだ。実際の現場で求められる技術レベルとは、大きな開きがある。
試験と現場のギャップ:
- 材料:新品ケーブル vs 既設・汚損ケーブル
- 環境:机上作業 vs 狭所・高所・暗所
- 時間:充分な時間 vs 厳しい工程管理
- 品質:減点方式 vs 完璧性要求
- 工具:試験対策品 vs 実用品
特に工具については、試験対策で推奨される製品と現場で実際に使われる製品が異なることが多い。これが「工具ギャップ」の核心だ。
Q. 試験で使った工具はそのまま実務でも使える?
A. 基本工具は使えますが、ストリッパーについては現場の評価が分かれます。試験用と実務用では求められる性能が異なり、特にストリッパーは耐久性の問題でプロは避ける傾向があります。
実際に入社1年目の工事士から聞いた話では「試験で覚えた通りにやったら、先輩に『それは試験のやり方だ』と注意された」という経験が非常に多い。
入社後に必要な工具の買い直しと予算目安
現実問題として、入社後に工具を買い直すことになるケースが大半だ。会社支給の工具だけでは不十分で、個人装備の充実が必要になる。
入社後の工具投資目安:
| 時期 | 追加工具 | 予算 |
|---|---|---|
| 入社直後 | 電工ナイフ、測定器 | 15,000円 |
| 3ヶ月後 | 専用工具、予備品 | 20,000円 |
| 1年後 | 個人特化工具 | 15,000円 |
| 合計 | – | 50,000円 |
この投資は避けて通れない。試験合格時の工具セットだけでは、現場の要求水準に対応できないからだ。
特にストリッパーについては、試験用(ホーザンP-958等)から実務用(ベッセル3200V等)への買い替えを検討する人が多い。ただし、前述の通り電工ナイフへの移行も選択肢の1つだ。
予算を抑えたい場合の優先順位:
- 電工ナイフ(2,000円)- 最優先
- 測定器(10,000円)- 安全のため必須
- 予備工具(5,000円)- 故障・紛失対策
- 専用工具(10,000円以上)- 現場に応じて
先輩工事士から学ぶ現場対応力の身につけ方
技術的なギャップを埋める最良の方法は、先輩工事士から学ぶことだ。ただし、学び方にもコツがある。
効果的な学習アプローチ:
- 工具の使い分けを観察する
- 失敗談を積極的に聞く
- 「なぜその工具を選ぶのか」理由を質問する
- 実際に触らせてもらう
- メンテナンス方法も併せて学ぶ
監修者の林氏は「新人時代、先輩の工具箱を見せてもらったことが最も勉強になった。同じ作業でも、人によって工具選択が全く違うことに驚いた」と振り返る。
現場での成長には、技術書には載っていない「現場の知恵」が不可欠だ。それを学ぶには、実際に現場で活躍している人から直接教わるのが一番だ。
ただし、注意点もある。先輩の方法が必ずしも最新・最適とは限らない。複数の人から学び、自分なりの最適解を見つけることが重要だ。
ストリッパーのメンテナンス方法と寿命を延ばすコツ
ストリッパーを長く使うためには、適切なメンテナンスが欠かせない。特に現場使用では、定期的な手入れが工具の寿命を大きく左右する。
日常的な清掃と注油のポイント
現場での粉塵や湿気は、ストリッパーの可動部に悪影響を与える。日常的な清掃で、これらの問題を予防できる。
清掃の手順:
- 作業終了後の粗清掃(ブラシで粉塵除去)
- 週1回の詳細清掃(分解できる部分は分解)
- 可動部への注油(月1回)
- 保管前の防錆処理
使用する清掃用品:
- 毛先の細いブラシ(歯ブラシでも可)
- パーツクリーナー(脱脂用)
- 機械油(CRC5-56等)
- ウエス(拭き取り用)
注油のポイントは「薄く・均等に」だ。油を付けすぎると、かえって汚れを吸着してしまう。可動部に1〜2滴垂らして、動かしながら馴染ませるのが基本だ。
刃の研磨と交換時期の見極め方
ストリッパーの性能を左右するのが刃の状態だ。刃が鈍ると、被覆の剥離が不完全になったり、芯線を傷つけたりする原因になる。
刃の劣化サイン:
- 被覆の剥離に力が必要になった
- 剥離面が毛羽立つようになった
- 芯線に傷が入ることが増えた
- 刃先に欠けや丸みが見える
研磨は専用のダイヤモンドやすり(#400〜#800)で行う。刃の角度を維持しながら、軽く数回こする程度で十分だ。
ただし、研磨には限界がある。以下の状態になったら交換時期だ:
- 研磨しても切れ味が戻らない
- 刃に深い欠けがある
- 可動部にガタつきが生じている
- 購入から2年が経過している(現場使用の場合)
交換可能な刃を持つ製品なら、刃だけの交換も可能だ。本体ごと買い替えるより経済的だが、対応製品は限られている。
現場での適切な保管方法と携帯時の注意点
ストリッパーの耐久性は、保管・携帯方法でも大きく変わる。特に現場での取り扱いには注意が必要だ。
携帯時のポイント:
- 専用ホルダーまたはケースに収納
- 他の工具との接触を避ける
- 落下防止ストラップの装着
- 刃部分の保護キャップ使用
現場での保管方法:
- 工具箱での固定(動かないようクッション材使用)
- 湿気の多い場所を避ける
- 直射日光を避ける(プラスチック部品の劣化防止)
- 定期的な動作確認
特に注意すべきは落下対策だ。ストリッパーは精密工具のため、1〜2mの高さからの落下でも故障する可能性がある。腰袋に入れる場合は、必ず落下防止の措置を講じよう。
監修者の林氏は「現場で工具を落とした時の絶望感は今でも覚えている。特に高価なストリッパーを落とした時は、その日の作業効率が大幅に落ちた」と苦笑いで振り返る。
予防に勝る対策はない。日頃の丁寧な取り扱いが、結果的に工具の寿命を延ばし、トータルコストを下げることになる。
▶ 電気工事士の転職・資格の総合ガイドはこちら
よくある質問
ここまでの内容を踏まえて、読者から寄せられることの多い質問に答えていく。
Q. 試験で使った工具はそのまま実務でも使える?
A. 基本工具(ペンチ、ニッパー、ドライバー等)は実務でもそのまま使えます。
しかし、ストリッパーについては注意が必要です。試験対策品(ホーザンP-958等)は試験環境では優秀ですが、現場の厳しい使用条件では耐久性に不安があります。Yahoo!知恵袋でも「VVFストリッパーは工具の中で一番壊れやすいモノです」という現場の声があります。
実務では「壊れにくさ」と「汎用性」が重要視されるため、電工ナイフへの移行を検討することをおすすめします。
Q. なぜプロは電工ナイフを使うのか?
A. プロが電工ナイフを選ぶ理由は主に3つあります。
1つ目は耐久性です。シンプルな構造のため故障しにくく、現場での信頼性が高いです。2つ目は汎用性で、配線剥離以外にも複数の用途に使えます。3つ目はコンパクトさで、腰袋で邪魔になりません。
また、狭い配線盤内や既設配線に近い場所での作業では、ストリッパーの長さが不利になることも多いです。総合的な作業効率を考えると、電工ナイフに軍配が上がるのが現実です。
Q. ストリッパーの深さ調整機能は本当に必要?
A. 実務では非常に重要な機能です。
電線メーカーによって被覆の厚さが微妙に異なります(フジクラ0.8mm、昭和電線0.85mm等)。この差を無視すると、芯線を傷つけたり被覆が完全に剥けなかったりする問題が起こります。
深さ調整機能があれば、メーカーごとに最適な設定で作業できます。ベッセル3200V等の実務向け製品が深さ調整機能を重視しているのも、この理由からです。試験では新品の同一メーカー品を使うため気づきにくいですが、現場では必須の機能だ。
