構造設計とは?求められる能力や働き方を調べてみた!

建築業界の職種の一つに「構造設計」があります。「構造設計」と聞いてどの様な仕事を想像するでしょうか?どの様な役割を持ち、どの様な流れで仕事をしているのか、ここではそんな「構造設計」という職種について同業界・同業種で働く人やこれから目指している人にとってより理解が深められて、年収や転職についても少しでもイメージがつく様な内容となっています。

目次

構造設計の役割とは?

構造設計とは、建築設計のうち大きく3つに分けられる「意匠設計」「構造設計」「設備設計」のうちの一つであり、主に安全性に配慮した構造に関しての設計を行います。
近年耐震性などから建物の構造に関して取り上げられる事が多くあります。ではその役割について以下の3つにまとめてみていきます。

構造設計の役割1:安心・安全性の確保

まず第一に安心・安全性の確保を行う事が構造設計の役割です。
日本は地震大国であり、さらに近年では豪雨や台風による被害を含めて自然災害による被害が多くあります。このような自然災害などから命を守るために、住宅をはじめ私たちの生活に欠かせない建物の安全性はとても重要です。

そこでこの建物の安心・安全性の確保をする上で欠かせないのが「構造設計」です。構造設計では、一般的に意匠設計によって考えられた設計を元に構造計算を行い、建物の構造上重要な要素となる柱や梁の寸法や形状、配置を決定していきます。これにより建築基準法に適合した安全で安心な建物を設計していくのです。

構造設計の役割2:デザインの成立

次に挙げられるのが、様々なデザインを建築物として成立させる事です。
街のランドマークとなるような造形的でデザイン性に優れた建築物が、日本にも世界にも数多くあります。しかしどんなに良いデザインであろうと、建物として成立しないのであればそれは建築できません。

そこでデザイン性を崩す事なくかつ安全性を確保するにはどのような構造方法を用い、どのように何をどこに配置するのか、これらを中心となって考えるのが構造設計です。つまり意匠設計のデザインを建築物として成立させる事が構造設計の役割とも言えるのです。

構造設計の役割3:建物の価値を高める

そして3つ目に挙げられるのが、建物の価値を高める事です。
耐震性能に関して、マンションの売込みチラシに「免震構造を用いた地震に強い家」とうたい文句のように書かれている事をよく目にすると思います。このように、より安全性の高い構造を計画する事で、建物に付加価値を生み出す事も可能となるのです。

また、古い建物や災害時の避難場所となるような重要な建物などにおいては、耐震改修を行う事で、今後も安心して安全に利用出来るようになります。この耐震改修において、既存の建物の耐震診断を行い、現行の基準に適合するにはどのような対処を行う事が適切なのか設計・計画するのも「構造設計」であり、現状よりも安心して利用できる建物として価値を高める事が可能となります。

構造設計に求められるスキルとは?

ではこの上記で記載した3つの役割を果たすために構造設計に求められるスキルと何なのか?それを「立体をイメージ出来る空間把握能力」「建物にかかる力をイメージ出来る能力」「ディテールを考えられる能力」の3つにまとめてみていきます。

スキル1:立体をイメージ出来る空間把握能力

構造設計に限らず全ての建築設計に必要な能力とも言えるのが、平面的な図面から立体をイメージする事が出来る空間把握能力です。構造設計は図面から3Dモデルを立ち上げて構造計算を行います。

そのため図面上の設計された建物が実際にどのような空間として成立するのかをしっかり把握する事で、より良い構造のあり方を設計する事が出来ます。

スキル2:イメージ出来る力

建物には重力や荷重による垂直な力と、風や地震などによる水平の力がかかります。これらの力学的な力のイメージが設計された建物において、どのようにどこにかかるのか、図面を見て把握できる能力が必要となります。

スキル1の空間把握能力と合わせて力の流れを立体的にイメージし、建物全体の力の流れを的確に捉える事が必要となってきます。

この力学的な力のイメージが出来る能力を鍛えるには、モーメントなど物理の知識が必要不可欠となります。常に空間にどのような力がかかっているのか想像したり、例題など計算問題をたくさん解いていく事で、建物モデルと力の分布をすぐイメージ出来る様にしていく事が大切です。

スキル3:ディテールを考えられる能力

全体像を捉える能力に加えて構造設計に必要なのは「ディテールを考えられる能力」です。
これは計算により得られた応力を満足出来るように部材の断面や配筋を決める際に重要となってきます。

計算通りの部材で納まるのか、実際の見え方に違和感はないかなど、細かなディテールをしっかりと考えて設計する事が、建物全体の印象や価値にも繋がります。

これは進んで現場に足を運び、現場でしっかりと細部まで確認をして、設計上のイメージとの相違があるか無いかその都度自分自身で確認していく事や、気になる空間の気になる納まりを実際に見てどの様になっているか考える事が大切です。

構造設計の働き方は?

構造設計は意匠設計が設計した図面を元に構造計算を行い構造設計をしていきます。そのため、基本的にはデスクワークですが、打ち合わせや現場確認などで外出し、人とコミュニケーションを取る事も多々あります。

構造設計の1日の流れは

1日中社内で設計を行ったり、意匠設計とのミーティングを行う事もあれば、朝から現場確認で現場に向かい、昼から社内で設計業務を行ったりと1日の流れは担当している物件の状況や物件数により様々な段階があります。以下に1日の流れの一例と物件の業務段階例を記します。

<一日の流れの例>
・9:00
メールチェックと今日やる事の確認をします。

・10:00
構造計算や図面作成などのデスクワーク業務を行います。

・12:00
1時間の昼休憩があります。

・13:00
午前の続きの業務を行います。

・15:00
社内ミーティングで意匠設計と打ち合わせを行います。

・18:00
終業時間となりますが、打ち合わせ内容の確認や、やり残した業務がある場合は残業となります。

<物件ごとの業務段階例>
物件開始当初:意匠設計との打ち合わせ〜設計業務
物件中盤:設計業務及び各方面の打ち合わせ〜申請に関する業務
物件工事開始:現場確認及び検査立会い
物件終盤:現場完了検査立会い

構造設計の休日や休暇は?

多くの企業が基本的に休日は祝日、週休二日のカレンダー通りに加えて、お盆・正月休みとなります。

ケース1:通常期

仕事量が通常期の場合、上記にあるように基本的には祝日と土日が休みである事がほとんどです。カレンダー通りに休みがある場合3連休になる事もあり、平日残業はあっても休みはしっかりと取れる事が多いです。

ケース2:繁忙期

対応する物件の数が増えればその分仕事量は多くなり、意匠設計との調整なども合間って忙しく時間がないという状況になる事もあります。その場合休日出勤をする事もあります。

また現場が始まると、現場に合わせたスケジュールとなる事もあるため、休日に検査があり立ち会うために現場に向かう、緊急の対応をしなければならなくなり現場や会社に出勤するという事もあります。

ケース3:長期休暇

お盆休みや正月休みは現場も休みになる事が多く、そのため長期休暇はそのまま取れる事が多いです。

しかし申請関係や今後の仕事のスケジュールに合わせて、長期休暇に入る前までにまたは明けるまでにここまでやっておかなければならないという事から長期休暇前は忙しくなるケースもあります。

構造設計の仕事が激務と言われる理由

建築業界においてどの職種もよく激務であると言われる事があります。実際に構造設計の仕事はどうなのでしょうか。

本当に激務なの?

構造設計の仕事は先で挙げたように、基本的にはデスクワークが多くその他に現場検査や打ち合わせなどあります。
繁忙期で仕事が重なる、あるいは全体の工期が短い、意匠設計に時間がかかり構造設計にかけられる時間が限られてきた時に時間の制約があり、激務となる可能性があります。

しかしどのような仕事においても同じ事が言えます。
構造設計の仕事内容自体が特別とても厳しいという環境では無いと言えます。

激務と言われる理由は?

ではどうして激務と言われる事があるのでしょうか?それは建築業界全体に言える事かもしれませんが、建築の仕事においてはまずスケジュールがとても重要視されます。

そこでスケジュールに合わせるために、様々な業務を行う必要があります。スムーズに意匠設計が決まり、時間に余裕を持って取り組めれば問題はありませんが、時には急遽設計変更が出る場合もあります。

その場合構造計算はまた一からやり直しになります。つまり設計次第で構造設計の仕事はいつでもやり直しになってしまう可能性があるのです。そのためスケジュールが押されて時間がない状態で仕事が続いてしまうと激務と言われる可能性があります。

構造設計の年収は?

構造設計の年収は、大手ゼネコン、不動産系、設計事務所など企業によりばらつきがありますが、転職サイトの求人募集などによると、多くの企業は年収400万円〜800万円である事が分かります。新卒の場合は初任給20万円辺りが多いようです。

また竹中工務店や日鉄エンジニアリングなど、一部の大手ゼネコンでは1000万円以上の年収となる可能性もあります。

年齢別

年齢別で細かく見ていく場合、構造設計に限ると判断資料が少なくはっきりとは分かりません。そこで建築業界の「設計」において調べて見ると以下のような平均年収の結果がある転職サイトより見て取れます。

20代前半:約350万円
20代後半:約430万円
30代:  約560万円
40代以上:約670万円

経験年数別

どのような職業においても、年収はやはり経験年数によって変化していきます。こちらも企業の規模などでばらつきはありますが、多くが実務経験5年で400万円〜500万円、実務経験10年以上で450万円〜700万円となります。このように経験が物を言う場合や、こなせる仕事量の差などがあるため、経験年数が長くなれば年収も増加していくというのが一般的です。

職種別:構造設計1級建築士:

構造設計においての一つの目標に構造設計一級建築士を取得する事があります。この資格を取得するためには、一級建築士を取得してから5年の構造設計の実務経験が必要です。
多くの企業が資格を取得すると資格手当が支給されます。また、実務経験も最低5年は積んでいる状態になるため、多くは年収のアップが見込まれ、平均年収は500万円〜800万円となります。

構造設計の将来性は?

2017年に竹中工務店が構造設計の業務を支援するAIシステムの開発に着手しました。これは2020年までに構造設計の中のルーチン的作業の70%を削減することを目指しています。

これにより構造設計の業務が効率化され、より細やかなディテールの検討などの業務に集中する事が出来るようになると考えられています。

その一方で構造設計の仕事が減り、必要人数が減ってしまうのではないかという不安の声も聞かれます。しかし全てがAIによる自動設計となるのではなく、AIと人間が共存して業務を行う事で、ワークライフバランスの向上が見込まれたり、より細やかな業務を行う事が出来るようになるかもしれません。このからの構造設計はよりクリエイティブで、AIには出来ない現場での監理や検査などをより細やかに行って行けるような、新たな働き方が現れてくるかもしれません。

構造設計の年収をあげるには?

最後にこれまで見てきた構造設計に関して、年収を上げるためにはどのような事が必要なのかをみていきます。

資格をとる

1つ目に挙げられるのは「資格をとる」という事です。
年収の比較でもあったように、一級建築士や構造設計一級建築士の資格を取得すると資格手当が支給されます。さらにはベースアップにも繋がります。つまり資格を取ることで月給アップとなり、強いては年収アップになるのです。

資格手当の相場は一級建築士で10000円〜60000円とこちらも企業によってばらつきがあります。

経験を積む

2つ目に挙げられるのが「経験を積む」という事です。
どのような仕事においてもやはり経験値は自分自身の糧となります。経験を積む事で得られるスキルによって、業務のこなし方も変化してきます。

様々な規模、用途の建物の設計に携わり、それに伴って申請関係や現場での経験を積む事で幅広い知識を得られ、次の仕事に繋がります。またコンペに勝つ事で企業や社会に貢献する事ができれば評価に現れ、年収アップにも繋がります。

転職をする

そして3つ目には「転職する」という事が挙げられます。
建築業界の年収は職種に関わらずやはり企業によってばらつきが見られ、企業規模が大きい方がより高年収であると言えます。

そのため、より高みを目指して転職する事で年収アップが見込まれます。この転職をするときに有利に働くのが前2つに挙げた「資格」と「経験値」です。資格を持ってある程度の経験を積む事で転職の際の条件交渉に役立ったり、選択肢の幅が広がります。

最後に

これまで構造設計に関してその役割から仕事の流れ、年収などについて見てきました。構造設計の仕事はスケジュール管理に厳しい面はありますが、その分やり甲斐は大きく、より高い専門性を身に付ける事で年収を上げる事が出来ます。

AIが導入されて働き方が変化していく可能性もあり、これからは構造設計もよりクリエイティブな職種となっていくかもしれません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次